二次創作ガイドラインが出るのが当たり前になって欲しい

この間Twitter(現X)のTLにこんなツイートが流れてきた。

ドラマ化にトラブルがあった原作者さんが亡くなるというニュースは、該当作品の読者じゃなかったけれど漫画のオタクである自分にとっては結構ショックだったし思うところもあった。

 

メディアミックスとファンの二次創作は一緒じゃないだろと言うのはもちろんあるとして、自分も二次創作をする身として、原作者を苦しめたり公式に迷惑をかける創作はしたくない。

でも漫画二次創作においてはガイドラインがある会社の方が稀である現状がある。思想強めに発信する作者さんがSNSで自ら発言でもしてない限り、どういう二次創作が嫌がられるのかはわからない。

 

何が嫌がられるのかわからないのだから二次創作は隠れるべきだという意見もあるけれど、インターネットに公開したり本にして頒布するのなら、絶対に見つからない保証なんてない。

二次創作は隠れろ、検索避けをしろという風潮に対しての自分の考えについては別の記事に書いてあるのでそちらを見てほしい。

shinunapzrv.hatenablog.com

shinunapzrv.hatenablog.com

 

じゃあ公式に不快に思われず迷惑をかけない二次創作をするためにはどうしたらいいか。

その解決策の一つに「公式の掲げる二次創作ガイドラインに従う」と言う方法があると思う。

二次創作ガイドラインというのは、平たく言えば「こういう二次創作はしないでね」という公式からのお達しだ。

私は、公式が二次創作をしてもいいと思ってるなら、そういうジャンルは全部二次創作ガイドライン出してくんねぇかな〜と思っている。

 

目次

 

どんな創作が公式の迷惑になるのか

公式の迷惑になる望まれない二次創作は大きく分けて二つに分かれると思う。

  • 作者の好み・解釈、作品のポリシーに合わないもの

これについてはウマ娘の話などが最近の大きなトピックスと言えるだろう。

実在する競争馬をキャラクター化しているコンテンツなので、そのイメージを損なう二次創作はしないで欲しいということで公式からガイドラインが提示された。

詳しくは以下の記事を参考にしてもらえるといいと思う。

二次創作についての考え方や感情、ポリシーは作者や権利者によって考えが大きく違う。エロ同人は嫌だという人もいれば歓迎の人もいるし、二次創作自体いやだという人もいる。

作品のターゲット層によっても望ましくない二次創作は変わってくる。

 

  • 公式の利益を損なうもの

これについてオタクの間では「営利目的かどうか」がよく論点になるけれど、この営利目的という判断も難しい。

同人活動において「売買」ではなく「頒布」という言葉が使われているのは、「自分たちは営利目的で活動してるわけじゃないんですよ」ってアピールのためだけれど、そこに金銭が発生しているのは間違いない。

 

利益を出さないためにノベルティを付けたり受注生産をやめたりDL販売を避けたりという風潮はあるけれど、実際に利益が出てるかどうかは公式に知る術はない。それを明らかにするためには裁判を起こすしかないのだ。

結果、頒布をしているならそれが営利目的でないと証明することは上記の風潮を守っていても難しい。

 

著作権の観点で言うなら、これら二つの理由どちらに抵触してるとしても、許諾を得ていない二次創作は基本的に権利者が訴えたら罪になる。

しかし書作権侵害は親告罪なので、訴えられなければ罪にはならない。現在は事実上黙認されている状態なのだ。

 

じゃあどんな二次創作が公式の意に反していて迷惑になり、訴えられる可能性があるのか。

その線引きをするためにガイドラインというものが存在するわけである。

 

なんでガイドラインがない公式がいるのか

今でこそゲーム系は二次創作に関するガイドラインが出てくるようになったけれど、出版社などを中心に二次創作ガイドラインの存在しない創作物はたくさんある。

安心して二次創作をするために自ジャンルにガイドラインを提示してほしいと思うオタクは私だけじゃないだろう。

そういう話をTwitterでしていたらとあるマシュマロが私のアカウントに投げ込まれた。

このマロ主のいうことが本当なら、少なくともマロ主さんの会社は自社のコンテンツの二次創作をお金や手間をかけてまでガイドラインを制定するほどの問題だと思っていないということになる。

 

たしかに数百万と時間と手間をかけてガイドラインを定めるのは大変だと思う。

しかし、実際にそれはコストに見合わないことなのだろうか?

 

二次創作でどれだけのお金が動いてるの?

二次創作の市場は年間800億円という話があるけれど、その一部の影響を受けうるであろう企業の一つであろう自ジャンルの公式が、どのくらいの影響を受けるものなのかはいまいちピンとこない。

実際一つのコンテンツあたりにどれだけのお金が動いてるのか知りたいなと思い、試しに2023年12月17日に開催されたでっかい二次創作オンリーのイベント、Dozen Rose fesのデータで試算してみようと思う。

参考にしたサイトはこちら

 

  • サークル参加側

自ジャンルを取り上げて例にあげる。各カップリングオンリーを合計すると、自ジャンルだけで604サークルある。

サークルの売上は明確なデータがないけれど、私の肌感覚でありえそうな基準値として、各サークル500円の本が20部売れたとする。

500円×10部=1サークル1万円

もっと売れてないサークルもあるだろうけど、大手サークルの部数とかを考えると平均としては過度に大きい数字ではないと思う。

1サークル1万円×604サークル=604万円

こう考えると、自ジャンルだけの二次創作で一回のイベントで600万くらいは動いてるだろうと考えられる。

 

  • イベント主催側

Dozen Rose Fseは一般参加無料なので、とりあえず1spあたりの参加費で売上を単純計算する。

1sp6500円×604サークル=392万6千円

椅子の追加などでもう少し売り上げていると考えると、400万くらいの売り上げになる。

 

サークルの売上とイベント主催会社の売上を合計すると、自ジャンルだけを見ても一回のイベントで1000万円くらいは動いていると考えられる。

正直計算してみて私は「そんなに!?」と思ったけど、それだけのお金が二次創作だけで動いている。

 

とはいえこれは売上で利益ではない。サークル側なんてほとんどのサークルは利益なんて出てないと思う。

でも二次創作を「公式の著作権を侵害して競合している創作物」と考えると、公式に流れる可能性のあったお金が一回のイベントでこれだけ二次創作に流出していることになる。

 

ちなみに、同じ計算をイベント全体ですると、

サークル総売上 1億2546万円

イベント主催売上 8154万9000円

一回のイベントで2億円くらい動いている計算になる。

このDozen Roze Fesは特に大きいイベントだったとはいえ、二次創作限定のイベントだったので、二次創作だけで一日でこれだけの金額が動いている可能性があるのだ。

 

じゃあなぜ訴えられてないのか

そんなに利益が損なわれているなら、ガイドラインなんて制定しないで訴えればいいじゃんという考え方もできると思う。

さっきも言ったように二次創作は訴えられたら基本負ける。じゃあどうして公式は訴えないのか。

 

まず個人サークルに関しては、訴えるとなると各サークル主を個々に訴えることになる。

全部で600万円の損害を賠償してもらうために、604サークルを訴えることになる。これは1サークル1万円の計算なのでマジで大赤字だが、600回の訴訟費用を考えると損害はもっと甚大でなければ元が取れない。訴えるだけ赤字になるわけだ。

そう考えると、訴えないのは当然だとも思える。

 

ではイベント主催会社の方はどうだろうか。

ジャンル名を伏せ字にしたりしているとはいえ、原作のタイトルロゴやキャラクター名をもじったりしているイベントバナーなどは著作権法に抵触しそうな気がする。

ちなみに集英社のホームページには以下の表記がある。

キャラクターなどの絵柄を利用していなくても、作品のセリフや小道具、あるいは特定の作品を想起させるようなモチーフなどを用いた商品、キャンペーンやイベントは、一般の方が「作品との正規コラボレーションや正規イベント」と誤認混同する恐れがあるので、有償・無償に関わらず、原則として許諾が必要ですが、個人の方に対して、利用許諾は行っておりません。

faq.shueisha.co.jp

特定の作品を想起させるものは原則許諾が必要だとある。イベント主催会社が許諾をとってるなら作品名に伏せ字はいらないので、許諾はとってないと考えられるだろう。

(もしかして検索除けしたら二次創作が許されるって考え、この辺から来てるのだろうか)

 

イベント主催会社は自ジャンルに限っても一回のイベントで400万くらい売り上げている。営利目的の企業なんだから、そんなイベントを年に何回もしているということはそれなりに利益も出ているということだろう。

 

印刷所だって二次創作で利益を出している企業だ。コロナ禍で印刷業界を支えようっていう動きで同人誌を出す流れがあったし、二次創作の同人誌がいっぱい出た。二次創作同人誌を出せば印刷会社が支えられるということは、印刷会社は二次創作に支えられている部分が大きいと言えるだろう。

ディズニーの二次創作同人誌を断っている印刷所も多かったことを考えると、著作権を侵害しているという認識が印刷所サイドにもあるのではないだろうか。

(印刷所が著作権侵害している認識がある可能性を取り上げるために記述しましたが、ディズニーと二次創作と著作権についての正しい認識については以下のブログを参照してもらえるとありがたいです)

nhironworks.blog.fc2.com

 

イベント主催会社も印刷所も営利目的の企業だ。自社のHPでわざわざ禁止だと表明していることでそのような企業が利益を得ているのに、公式がイベント主催会社や印刷所を訴えたという話は聞かない。

これはどういうことだろうか。

 

公式の売上に対する二次創作の売上の大きさ比較

自ジャンルを例にして取り上げると、コミックス世界累計発行部数は2023年時点で8500万部を達成している。

コミックスが発売された2014年から10年かけてそれを売ったと考えて一年あたりの推定売上を計算してみる。

8500万部×480円÷10年=40億8千万円

年間40億円分発行されてるんだ……すごいな……。

イベントが年10回あったとしたら、イベント主催会社が年に10回自ジャンルオンリーを開くと年間売上が約4000万円。

コミックスの売上の方は発行部数でしかないので厳密には売上ではないし、世界累計発行部数で計算しているので、実際に公式の売上になるのはもっと少なくはなる。でも他にもグッズや映画の興行収入などもあると思うので、ひとまずこれを比較対象とする。

とすると、イベント主催会社の売上は公式の売上の1%くらいということになる。

 

企業の業績における1%がどのくらいの影響力なのかは私はいまいちピンとこないけれど、大企業の売上高が10%変動すると結構大きなニュースになる印象なので、自社の権利が侵害されて売上1%持っていかれてるとしたら、訴えることは選択肢に入るのではないかと思う。

 

ちなみに、任天堂が公道マリオカートを訴えた時には判決として5000万円の賠償が命じられた。動いた理由が金額だけじゃないにしろ、5000万円の賠償が見込める裁判で任天堂は動いている。

www.asahi.com

 

私のところにきたマシュマロには以下のように書いてあった。

なお、上層部は同人活動に対して疎いため、そもそも二次創作に詳しくありません。よく分かってない、というのが実情です。

 

前述の通り、判断を下す上層部は同人活動に疎い場合が多く、同人活動を許容するメリットを理解しておりません。個人の活動に数百万規模の宣伝効果があるとは判断しません。数百万の費用を負担してまで細かいルールを制定し、同人活動を許容するくらいなら、全て禁止するか無視する方を選びます。

 

ここに書いてあることが本当だとして、公式の売上に対する二次創作の売上の割合を同程度と仮定する。

マロ主さんの会社の上層部は、利益がないと思っている二次創作のせいで、自社売上の1%が営利目的の企業に権利侵害されていることになる。サークル側の同人活動も含めれば、二次創作の売上は公式の売上の2%以上になる。

自ジャンルは上記の通り結構巨大ジャンルで、マロ主さんの会社の実情とはそぐわないのかもしれない。でも、宣伝効果が薄いと感じている二次創作が公式の権利を侵害している上に営利目的の企業がそこで利益を出しているなら、マロ主さんのいう通り二次創作を禁止した方が話が早い。

しかし実際には、マロ主さんの会社でも自ジャンルでも、二次創作の禁止は明文化されていないし、訴訟も起こっていない。

 

マシュマロではマロ主さんの会社の上層部は「二次創作の利益をわかってない」という話だが、利益がわからない二次創作の権利侵害でこれだけのお金が動いていることを知らないのであれば会社の体制がかなりまずいと思う。

仮にも創作物を出している企業の二次創作に対する認識が「よくわからない」程度であるのがもしも本当なら、そろそろその体制は見直されるべきだと思う。

 

以上の状況から「公式は二次創作は権利侵害で阻害されている売上よりも、禁止しないメリットの方が大きいと考えている」と私は推測している。

 

良い二次創作、悪い二次創作

私は公式の売上を奪いたいだなんて思ってないし、作者の意向や作品のポリシーに反していて迷惑だというのなら、その作品は公開するべきではないと思っている。

でも公式が二次創作に禁止しないメリットがあると考えているのであれば、公式のメリットになる二次創作がしたい。

 

どの程度の規模で頒布をすると、どのような作品を作ると、公式にとって二次創作のデメリットの方が大きくなってしまうのか。その塩梅をファンがはかるためにも、やっぱり二次創作ガイドラインは必要だと思う。

実際に最近のゲームジャンルでは作品のリリースと同時に二次創作ガイドラインが出されることが多くなった。

support.ensemble-stars.jp

こちらのガイドラインでは、どの規模でどのような二次創作が禁止されるのかがかなりしっかり線引きされている。グッズと同人誌で基準が違うなどの点を見ると、この公式は同人誌よりグッズの方が権利的に厳しめなのがわかる。

umamusume.jp

対してこちらのガイドラインでは金額や規模などについての規定はなく、作品傾向についてのみ言及されている。ファン活動を否定するものではないとはっきり書いてあることから、ガイドラインに沿った二次創作は歓迎されているものと考えられる。

 

このように、公式が二次創作に対してどのような懸念を持っているかを明文化してもらえると、ファンは安心してルールの中で二次創作ができる。公式もガイドラインをはっきり引いてある以上、メリットのある「良い二次創作」は残して、違反している「悪い二次創作」は法的対処をとることができる。

業績の大小はあるかもしれないが、それなりの売上があるならファンの安心のために企業に数百万と手間暇をかけて欲しいと私は思う。

それが手間で二次創作を許すのなんて面倒だから全部禁止するというなら、それも仕方ないと思う。その判断がされるということは、その公式にとって全てが悪い二次創作だからだ。

 

良い二次創作と悪い二次創作を決められるのは権利者だけなのだ。

 

最後に

発端のニュースにあるメディアミックスと二次創作とは、契約や規模などの点で同一視できるものではない。

ただ、クリエイター業界が意識や認識を改めなければいけないという点は共通していると思う。

原作者と脚本家の個人がクローズアップされがちだが、間にはそれぞれの利益を守るために働くべき企業が二つ挟まっている。実際にどのようなやり取りがあったかはわからないけれど、クリエイター業界全体の負の同調圧力やクリエイターが尊重されない現状については、このニュース以外にも度々Twitterで話題になっている。

 

同人活動の市場が大きくなり、二次創作から商業のクリエイターになる人も多くなり、二次創作同人イベントにその版権を持っている会社の出張編集部が来ているし、その出張編集部でし出版社がスカウトもしている。

つまり、二次創作をしている層からクリエイターを発掘できると企業が考えているということだ。

そんな中で二次創作は暗黙の了解と同調圧力なんていうものでどうにかする時代は、もう終わりにするべきだと思う。企業がクリエイターを守る努力をもっとするべきだという点は、発端のニュースと二次創作の問題に共通する点だと私は思う。

 

先の章で取り上げた通り、ゲームの界隈では二次創作ガイドラインが制定されることが多くなった。これにはゲーム実況という形態でのゲームの消費を認める動きが出て、それに合わせて二次創作のガイドラインも作られるという流れができたように感じている。

実際、ゲーム実況によってプレイヤーに限らないゲーム消費者の裾野は広がったという話も聞く。

 

じゃあ二次創作はどうなんだろう。二次創作は原作を読む人の裾野を広げてはいないのだろうか。

私はどちらかというと漫画のオタクで、二次創作が好きだ。二次創作に触れて手を出した原作もいっぱいある。自分が二次創作してTwitterではしゃいでいたら、それを見たフォロワーが原作を読んでくれたこともある。本当に嬉しかった。

だから、ガイドラインのあるジャンルで、公式にメリットがあると認められながら堂々と二次創作ができるファンが羨ましい。

 

自ジャンルの出版社にはぜひ二次創作ガイドラインを出して欲しい。

原作者も会社の利益もファンの楽しみも全部守られて、クリエイター業界がより良いものになることを心から願っている。